K3、太地新宮自転車道線を往く

大規模自転車道

太地新宮自転車道線は、和歌山県東牟婁郡太地町太地から新宮市新宮までを結ぶ約25.3kmの大規模自転車道です。著名廃道サイトに取り上げられたこともある、わずか1.7kmの専用道区間がこの自転車道の現在(いま)を表します。2023年9月19日走破。

太地新宮自転車道線の基本情報

正式名称は和歌山県道802号太地新宮自転車道線
通称太地新宮自転車道
平成元年(1989年)工事開始、未完成。
計画距離25.2km中、整備済み7km程度、専用道区間はおそらく1.7kmのみと推測されます。
平成10年(1999年)に一度計画が休止されるものの、平成30年(2018年)に再開。
令和元年(2019)に700mの新規区間が供用開始となっています。

起点和歌山県東牟婁郡太地町太地(太地町役場前)
終点和歌山県新宮市新宮(国道46号線速玉大社前交差点)
大規模自転車道とは?

起点最寄りはJR紀伊本線太地駅から凡そ2km。終点は同じくJR紀伊本線新宮駅から大凡1km。両駅とも特急が停まりますが、大都市圏に出るには特急で名古屋まで3.5時間、大阪まで4.5時間。

和歌山県東牟婁郡太地町太地の太地町役場前を起点とし、海岸沿いに国道42号線沿いを北上。専用道区間を経て、再度国道42号線沿いに北上。新宮市へ入り、終点の和歌山県新宮市新宮速玉大社前交差点へと至ります。

ルートの大半がナショナルルートである太平洋湾岸自転車道に組み込まれています。

太地新宮自転車道線に至るまで

大規模自転車道周遊の旅、和歌山県の1本目白浜日置自転車道を走り、周参見からJRきのくに線で太地新宮自転車道の起点、太地方面へ向かいます。鉄路が紀伊半島外周を走ることもあり、近畿地方の中では大阪から見てほぼ最遠地になります。時間だけなら東京博多に行くほうが圧倒的に早い。

JRきのくに線ではきのくに線サイクルトレインを実施しており、御坊駅から新宮駅までの普通列車は朝の通勤時間等を除きそのまま自転車が持ち込めます。ただし固定は必須、折りたたんでも吹っ飛んだらまずいのでちゃんと固定しましょう。

手すりにゴムワイヤでロックして乗車するK3

和歌山駅から御坊駅の間でも事前予約すれば、また特急くろしおの特定車両でもサイクルトレインで自転車が持ち込めます(ルールはサイトを要確認)。普通列車に関しては地元の若い子らがヤンチャ気味なようで「無茶してっとやめんぞゴルァ!」と張り紙が出てました。

途中串本駅で乗り換え。待ち時間が40分ほどあり「時間内に11kmを往復して「日本最南端の碑」へ到達」……というミッションがあったのですが、道中そこそこの坂があり、当日は結構な夏日だったこともあって、断念して引っ返しました。帰りは下り坂になることを考えれば多分行けたとは思うんですが、万一乗り遅れると次の列車が2時間後とかになります。旅の行程が破綻するので、安全第一。

観光地だけあって小さいながらなかなか立派な駅舎

太地町は古式捕鯨発祥地の地、くじらの町として知られておりますが、地理的に本気で来ようと思わないとなかなか訪問の機会がありません。

駅前の和歌山サイクリングマップ、現在地がちょっとクジラの尾びれっぽい

起点は2kmほど先、太地町中心部なので、早速向かいます。

道の駅たいじ外観

道の駅たいじは太地町に向かう際にも通りますので、ここが太地町出入りの起点的な位置づけ。通り過ぎ、少し進んだところを右折。

途中の太地隧道にもクジラのレリーフ

太地町はちょっとした山に囲まれており、軽い峠越えするか隧道抜けるかになります。

太地新宮自転車道線を走る

起点は太地町役場前、ということになっているようです。

太地町役場前の起点と思わしき箇所

案内板、標識の類はなく、自転車道っぽくもないのでだいぶ怪しいですが、旧国交省サイトの地図によればここで間違いないはず。太地新宮自転車道線スタートです。

突然現れる三冠王

普通に走ってても落合博満野球記念館の案内板が目に入るのですが、出身地とかいうわけではなく、土地が気に入ったので別荘建てて兼個人記念館ということらしいです。2kmくらい先ですが、WAKAYAMA800で走ってるとすぐ近くを通ります。すんごい迂回するので。

今となってはなかなかお目にかかれないくじら料理専門店

WAKAYAMA800だとくじらの博物館方面へ行くのですが、旧地図だと向かっていないようなので手前で折れて県道240号線で太地町駅方面に向かう道を進みます。ここから軽い峠越えで坂になります。というか、この後もルート全般そこそこ傾斜があります。

途中にある巨大なクジラのモニュメントは太地町へ向かう際にも通り過ぎます
再度道の駅たいじ、太平洋湾岸自転車道の案内ポストが立ってます

道の駅たいじへ戻ってきたら右折し、国道42号線沿いに新宮を目指します。

右上にくじらの風車

最初こそ歩行者自転車道がありますが、すぐに消えて車道の青矢羽を進むことになります。交通量はさほどでもありませんが、路肩もめっちゃ狭いしトラック等の業務車両が多いので速度の出ないミニベロだとかなり気を使います。

とはいえ、1kmも進まないうちに車道を離れる案内表示が登場。

国道からの離脱を促す案内

奥に見える白看板は「サイクリングロード通り抜けでき【ます】」。青看板は「この先【階段】あり」。本来、わざわざ通れる標識は置きませんし、下半分が草で隠れてる関係で、標識だけ見ると絶対誰も通らないだろって感じですが……階段あると尚更。

ちなみにこの階段の方の表示は2021年時点のGoogleストリートビューには存在しておらず、太平洋湾岸自転車道の現地視察の際の指摘を受けて立設置された模様。

そして、ここからが問題のポイント。著名廃道サイトである山さ行がねがにて2013年に「建設休止となって久しい大規模自転車道」として取り上げられたことがあります。橋が通ってなかった遠野遠和自転車道に続き2件目。記事を見ればわかる通り当時は不通だったのですが、ここが令和元年に開通したわけです。

何せ開通したのは令和です。さぞかし立派になっていることでしょう!

う、うーん?
お、おう……

このトンネルは平成4年(1992年)開通の三軒屋トンネル、延長は141m。早々に開通後、30年近い時を経てようやく役目を果たすときが来たわけですが、手前の道は草に侵食され既に荒れ始めており、嫌な予感しかしません。

トンネルの内壁はタイル状の補強がされていますが

とりあえず抜けてみます。

木の枝やら苔やらで路面が半分くらい見えない

台風が通ったあとの路面とかこんな感じですよね。右手のには管理棟兼トイレの建物がありますが、めっちゃ下草生えてる。うーむ、と思いながら進みます。

完全に草木が路面を侵食

草は路面割ってるし、横手の樹木が成長しすぎてバシバシ顔や腕に当たるし、これは酷い。開通宣言出たのわずか5年前なのですが……。仕方ないので進むと、海岸沿いの開けたゾーンへ。

先で倒木が道を塞いでる
右手に開けた海

右手に広がる海岸の景色は大変素晴らしい。左手に広がるこれから進む道に目をつぶれば。路面状況は最悪、草木も放置プレイでえらいことになっております。そもそも通行者が少なすぎるせいで路面が踏み固められず伸び放題、同じく枝を払う人も無く……といった感じ。公的なメンテナンスもおそらく皆無。

海岸沿いから、今度はきのくに線と並走するゾーンへ。

見渡す限りの大自然

遂に視界すら通らなくなりました。これは酷い。あと、走ってるとフロントタイヤの眼の前の地面でズザザザザザっと何かが大量に左右に避けてくんですよね……。今更引っ返すわけにも行かないので、仕方なく枝バシバシ顔に当たるわギアが草噛むわ羽虫がガンガン目の前突っ込んでくるわを払い除けつつ押し通ります。

「この先階段!!」て見えとるわ!!!!

草木かき分けて進んだら待ってるのが階段というのも酷い話です。ともあれここがボトルネックだったであろう高低差を解消するため、令和元年に新設された階段になります。その前は行き止まりになってお茶を濁す東屋が立っていた模様。開通を伝える紀伊民報の記事によると、階段の長さは82mだそうで。

この階段を登ると、令和元年(2019年)に新規整備された600mほどの自転車道に入ります。

脇の自然が侵食してきており、路面も既に割れる気配が……。

ここまでに比べれば路面は明らかに綺麗で自然の侵食もだいぶマシですが、既に荒廃の気配が漂っています。メンテせず人が通らない道って、数年でここまで荒れるんだ……という新たな知見を得ました。草刈りや路面張替えしてくれてる業者の皆さんいつもありがとう。

一応、和歌山県サイトから開通当時の在りし日の姿を引用しておきます。通行時の動画も撮ってるので、編集出来たらYoutubeあたりに掲載予定。

開通当時。どうしてこうなった。

とはいえ600mの区間は張り出した木の枝に気をつければ普通に通行可能で、いくらかは自転車が通ったであろう轍跡もありました。そもそも草に埋もれてるところは轍とか確認のしようもありませんが。

国道43号線へ合流

たった1.6kmにドッと疲れつつ、国道43号線に合流です。自転車道一本走りきった感覚がありますが、実際のところ起点から4kmくらいしか進んでおらず、新宮はまだまだ先です。

那智勝浦のゆかし潟にかかるみなとはしほどうきょう

国道43号線沿いは歩行者自転車道はおろかまともな路肩すらない区間も多く、かなり走行には気を使います(主に追い抜く自動車が)。信号は殆ど無いので足を止めることはないのですが、緩やかながら勾配もそこそこあるので楽しい道ではない。

スタート5kmあたりにある湯川トンネルは新旧のトンネルが併存しており、自転車は旧トンネルの方を通ります。おそらく交通量確保のために新トンネルを通して、元々車が通っていた旧トンネルを歩行者用にしたのでしょう。車道を横断することになるのでちょっと気を使います。

湯川トンネルは右側の旧トンネルへ

ルートは基本太平洋湾岸自転車道の案内に従えば問題ありません。

基本は路面案内、または案内板に従えばOK

紀伊勝浦周辺は温泉地であり、一時国道42号線沿いを外れますが、すぐに合流します。コース沿いに日帰り温泉や無料の足湯などもあるのですが、時間が気になっていたのでスルーしてしまいました。

那智周辺、新宮まで15km
道路用の標識でここまで放置されてるのはあまり見ない

途中、道の駅なちがあり補給やお手洗い対応が可能。ここでだいたい起点から10kmくらい。

道の駅なち外観

変わらず国道43号線沿いを進みます。

大狗子トンネル、171mと短く超細い歩道もあり
地方の切なる願望、奥は小狗子トンネル(歩道あり)
無人駅の宇久井駅

特に話題にすることがないくらい淡々と進みます。車道横の歩行者自動車道は出たり消えたり。

いよいよ新宮市へ

新宮市に入れば残り10kmほど。市境は路肩走行ですが、その後わりと自転車道っぽい道が続きます。右手に新宮警察が見えたところで案内に従い右折、国道43号線を離れて県道231号線あけぼの広角線へ入ります。

新宮警察近く
海岸沿いの眺望

海岸沿いに出ると景色が開けてなかなか気分爽快。道路も比較的しっかりしています。ほどなく海岸沿いの道から新宮の町中へ向かいますが、途中に目立つ徐福公園があります。佐賀感情自転車道にも徐福伝説にちなんだ徐福ロードがありましたが、佐賀が徐福渡来の地であるのに対し、新宮は徐福の墓があるそうな。

右手オレンジ屋根の建造物が徐福公園

新宮城跡が見えたら残りわずか。

正面が新宮城跡、残り500mラストスパート

再度国道42号線と合流し、速玉大社前交差点でフィニッシュです。

速玉大社前交差点

例によって終点起点表示、案内板の類はありませんが、旧地図と表示のされ方からしてまあこのあたりが終点ということにしておきます。

列車の時間が迫っており、新宮駅まで1kmほど引き返して、次の目的地へ向かいます。

新宮駅はそこそこの規模

これにて太地新宮自転車導線、終了です。

太地新宮自転車道線のまとめ

専用道区間は1.7kmと短く、状況は記事の通り惨憺たる有り様。その他は大半の区間を国道42号線沿いに走りますが、歩行者自転車道は現れたり消えたりで全く安定せず、基本的にロードバイクで青矢羽に従って車道を走る前提のように見えます。太地新宮自転車道としての標識は皆無ですが、ほぼ全区間太平洋湾岸自転車道の案内とブルーライン及び青矢羽を伴うため、見落としさえしなければ迷いはしません。

路線としては一部熊野街道と並走しつつ太地町と新宮という観光地を結ぶ路線、といったところですが、途中温泉地を経由するなどそれなり見どころはあります。専用道区間も景観も悪くないはずなのですが、視野が閉ざされてしまっており……。

兎に角、「廃道サイトに取り上げられてた道が復活したと聞いて行ってみたらやっぱりだめじゃねーか!」に尽きます。令和に開通しているのに、ちょっと他ではお目にかかっていないレベルの荒廃っぷり。

K3導入(2019年)してすぐ行ってれば全く違った状況が見られたはずですが、そもそも太平洋湾岸自転車道の正式な一部なわけですし、なんとかメンテナンスお願いしたいなあ、と。

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